TKN Pro ~ 億万の金を手にするサクセスストーリー ~ 第一話
2018年11月10日 ポエム コメント (2)*この物語に出てくる団体・登場人物は現実のものとは一切の関係がありません。
彼はベッドの中で財布の中身を数えた。四百二十七円だった。窓を締め切り羽毛布団まで被っているのに、心の中に秋の寒風が入り込んできたような気分になった。あ~こりゃ布団から出られねえな。彼は二度寝した。
二度寝から目覚めると枕元のデジタル時計を見た。十四時三十分、最初の目覚めから一時間と少し経ったばかりだ。
もう一度財布の中身を数えた。無情にも四百二十七円と勘定される。数を数えるという能力は紛れもなく義務教育の賜物だが彼はそれを恨んだ。あ~世の中の人間全員数を数えられなくなって四百二十七円で百万円分の買い物できねえかな。彼はクズだった。
とりえあずとばかりに彼はベッドの中でのびをした。もはや眠気もなく、空腹を感じてきた。しかし四百二十七円ばかりで何を食べられるというのか?
「あ~早く準備してラーメン食べなくちゃ!」
彼は数を数えることはできたが引き算はできないのかもしれなかった。
ベッドから出ようという時、彼のスマートフォンにメッセージが来た。「岡 門太郎」という表示だった。
「金返せ」
彼は既読だけつけてラーメン屋へ向かった。
スマホで店を調べつつ自転車(貧民の強い味方だ)を走らせる。店構えを見て、ここでもない、あそこでもないと吟味する。彼は金はなくとも誇り高き美食家なのだ。不味い食事などペッパーくんの餌にでもすれば良い。
しかし、そうこうしているうちに十五時を過ぎた。ラーメン屋のほとんどが準備中という札を掲げる時間になっていた。東京ではいつでも食べられたのだが、と彼は恨めしい気持ちになった。
さて、いよいよ時間は過ぎ、営業中のラーメン屋は見られなくなった。彼は財布の中身を数えた。三百二十六円になっていた。さっきいろはすを買ったのだ。やはり桃味が板。
もはや松屋で牛丼の並盛すら食べられなくなった彼は、三菱UFJ銀行を見つけて銀行ATMの前に立った。カードを挿入して「引き出し」を選び、パスワードを入力する。「いくら引き出しますか?」との質問に、とりあえずと千円の回答をする。
果たして千円は出てこなかった。彼の口座残高には八百円ほどしかなかったのだ。
仕方がないので彼はおろせるだけおろすことにした。幸いにも平日の三菱UFJ銀行、手数料なく全額手にすることができた。彼はこういったことに関しては天才的だった。すべての銀行ATMの利用料無料時間が頭に入っており、さらには自分の給料が振り込み日の午前零時からおろせるようになるということも知っていた。まさに模範的な倹約家なのである。
「さて、パチンコ行くか!」
と同時に、模範的な経済主体でもあった。
人生を過ごす上で、彼にはいくつか信条としているものがあった(これをTKN百八式と呼ぶ)。そのうちの一つが「パチンコ台は実質ATM」というものだった。
銀行ATM(ここでは便宜上、必ずATMの前には区別を入れている)はカードを入れてボタンを弾けば金が出る。パチンコATMはコインを入れて玉を弾けば金が出てくる。いったい何が違うというのだろう。義務教育という強力な武器を持つ彼からすればそれらは同様のものでしかなかった。彼はパチンコ屋に入った後、入る前よりも多額の金を持って出た記憶しかなかった。
彼はパチンコ屋に入った。音の濁流が耳に押し寄せるが、久々の感覚が心地よかった。彼は一つの台を選びそこに座った。さあ、今日も金を引き出して帰ろう。彼は悠然たる気持ちでパチンコATMの操作を始めた。
しばらく経ってから彼はパチンコ屋から出てきた。その顔は入る前と少しも変わらず、これからラーメン屋でも探しに行こうかという面持ちだった。停めていた自転車を開錠すると、彼は財布の中身を数えた。中身は十三円になっていた。
「使った覚えないんだけどな~おかしいな~」
彼はパチンコで負けると記憶喪失になるのだった。
自転車に跨り帰路についた。空腹はひどくなっていたが、まだラーメン屋が始まる時間ではない。耐えかねているのでカップラーメンにしようと考えていた。彼は誇り高き美食家だが時々そうではなくなることができた。メリハリがあってすごいぞ!
自宅について、彼はお湯をわかした。幸いにも明後日が給料日だ。なんとか生きることはできるだろう。カップラーメンの在庫は十分にあった。
彼はスマホを手に取った。通知が一件来ていた。「クソガキさん」からだった。
「牡蠣弁当代返せ」
牡蠣という漢字は義務教育で教わらないのでよくわからなかった。
お湯が沸く音がした。彼には明日も素晴らしい一日が待っていることだろう。
彼はベッドの中で財布の中身を数えた。四百二十七円だった。窓を締め切り羽毛布団まで被っているのに、心の中に秋の寒風が入り込んできたような気分になった。あ~こりゃ布団から出られねえな。彼は二度寝した。
二度寝から目覚めると枕元のデジタル時計を見た。十四時三十分、最初の目覚めから一時間と少し経ったばかりだ。
もう一度財布の中身を数えた。無情にも四百二十七円と勘定される。数を数えるという能力は紛れもなく義務教育の賜物だが彼はそれを恨んだ。あ~世の中の人間全員数を数えられなくなって四百二十七円で百万円分の買い物できねえかな。彼はクズだった。
とりえあずとばかりに彼はベッドの中でのびをした。もはや眠気もなく、空腹を感じてきた。しかし四百二十七円ばかりで何を食べられるというのか?
「あ~早く準備してラーメン食べなくちゃ!」
彼は数を数えることはできたが引き算はできないのかもしれなかった。
ベッドから出ようという時、彼のスマートフォンにメッセージが来た。「岡 門太郎」という表示だった。
「金返せ」
彼は既読だけつけてラーメン屋へ向かった。
スマホで店を調べつつ自転車(貧民の強い味方だ)を走らせる。店構えを見て、ここでもない、あそこでもないと吟味する。彼は金はなくとも誇り高き美食家なのだ。不味い食事などペッパーくんの餌にでもすれば良い。
しかし、そうこうしているうちに十五時を過ぎた。ラーメン屋のほとんどが準備中という札を掲げる時間になっていた。東京ではいつでも食べられたのだが、と彼は恨めしい気持ちになった。
さて、いよいよ時間は過ぎ、営業中のラーメン屋は見られなくなった。彼は財布の中身を数えた。三百二十六円になっていた。さっきいろはすを買ったのだ。やはり桃味が板。
もはや松屋で牛丼の並盛すら食べられなくなった彼は、三菱UFJ銀行を見つけて銀行ATMの前に立った。カードを挿入して「引き出し」を選び、パスワードを入力する。「いくら引き出しますか?」との質問に、とりあえずと千円の回答をする。
果たして千円は出てこなかった。彼の口座残高には八百円ほどしかなかったのだ。
仕方がないので彼はおろせるだけおろすことにした。幸いにも平日の三菱UFJ銀行、手数料なく全額手にすることができた。彼はこういったことに関しては天才的だった。すべての銀行ATMの利用料無料時間が頭に入っており、さらには自分の給料が振り込み日の午前零時からおろせるようになるということも知っていた。まさに模範的な倹約家なのである。
「さて、パチンコ行くか!」
と同時に、模範的な経済主体でもあった。
人生を過ごす上で、彼にはいくつか信条としているものがあった(これをTKN百八式と呼ぶ)。そのうちの一つが「パチンコ台は実質ATM」というものだった。
銀行ATM(ここでは便宜上、必ずATMの前には区別を入れている)はカードを入れてボタンを弾けば金が出る。パチンコATMはコインを入れて玉を弾けば金が出てくる。いったい何が違うというのだろう。義務教育という強力な武器を持つ彼からすればそれらは同様のものでしかなかった。彼はパチンコ屋に入った後、入る前よりも多額の金を持って出た記憶しかなかった。
彼はパチンコ屋に入った。音の濁流が耳に押し寄せるが、久々の感覚が心地よかった。彼は一つの台を選びそこに座った。さあ、今日も金を引き出して帰ろう。彼は悠然たる気持ちでパチンコATMの操作を始めた。
しばらく経ってから彼はパチンコ屋から出てきた。その顔は入る前と少しも変わらず、これからラーメン屋でも探しに行こうかという面持ちだった。停めていた自転車を開錠すると、彼は財布の中身を数えた。中身は十三円になっていた。
「使った覚えないんだけどな~おかしいな~」
彼はパチンコで負けると記憶喪失になるのだった。
自転車に跨り帰路についた。空腹はひどくなっていたが、まだラーメン屋が始まる時間ではない。耐えかねているのでカップラーメンにしようと考えていた。彼は誇り高き美食家だが時々そうではなくなることができた。メリハリがあってすごいぞ!
自宅について、彼はお湯をわかした。幸いにも明後日が給料日だ。なんとか生きることはできるだろう。カップラーメンの在庫は十分にあった。
彼はスマホを手に取った。通知が一件来ていた。「クソガキさん」からだった。
「牡蠣弁当代返せ」
牡蠣という漢字は義務教育で教わらないのでよくわからなかった。
お湯が沸く音がした。彼には明日も素晴らしい一日が待っていることだろう。
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